今年の夏から、ひと月の1週間は、山間の集落で過ごしている。
日本海沿いの街から車を走らせ、谷と谷の合間、開けた山の上にある棚田の村。
はじめて訪れたのは昨年末の12月のこと。
まだ浅く、舞うような粉雪に覆われた景色と束の間の晴れた空が、この集落との出逢いの瞬間であった。何かが始まる予感と、何かを始めないとならない焦燥感を感じていたように思う。
新潟県糸魚川市 市野々集落。
独特の地形がこの地域の豊かさを形づくっている。新潟の最西端にある糸魚川は、山と谷、川と海からなる。7つの谷から川となって日本海へと注ぎ込む地形と、それぞれの谷沿いにある人びとの暮らしが谷ごとの風景を生み出している。
僕と糸魚川とのつながりは20年以上前に遡る。これまでも数ヶ月ごとに通っている場所ではあるが、これから始まる取り組みに向けた準備のためにいっそう足繁く通っている。設計という仕事は依頼を受ける仕事であるが、ここでは自ら企画し、場を作り、仕事を生み出していこうとしている。
集落の風景を灯しつづけること。それがこの市野々で僕たちがはじめている挑戦である。
幾度かに分けて綴っていきたい。